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世間様かくありき
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[著者名] 若合春侑
[出版社/発売日] 集英社/01.09.01
[ISBN] 4087745473
[種類] 単行本
[ジャンル] 小説
[おすすめ度] ★★★★
表紙1 |
--書評-- 若合春侑のデビュー作『脳病院へまゐります。』は衝撃だった。旧仮名遣いの端正な文体で書かれた、愛する男にどこまでも虐げられる女の物語。 変態的性行為に溺れる男女の関係を描いた耽美的な世界は、谷崎潤一郎の小説のように淫靡でありながら、時々くすりとさせられるユーモアも覗き、新人の作品とは思えない完成度だった。
その作家の2冊目の単行本が、この『世間様かくありき』である。今回は性描写もSMもほぼゼロで、前作に比べたらかなり毒気の抜けた印象だ。 しかしヴァイオリンを愛する盲目の息子、のちに精神に破綻をきたす天才音楽家の「先生」など、登場人物からして、むせ返るほどのデカダンスな香りは健在。
もともと上流階級の娘として育った主人公は、時代が第二次世界大戦へと突入すると、否が応でもほかの女性と同じようにモンペを履き、生活のため助産婦の職にも就くが、それでもどこか生い立ちに裏打ちされた上品さを残している。 「先生」との恋の季節はあっという間に去り、世間から好奇の目を向けられ不幸ばかりが訪れる中、最初はいかにもお嬢さま然としていた主人公が、母として女として強くなっていく様がたくましい。貧しい戦時下で、「生き抜かなければ」と腹を据えた主人公は、息子のため、そして自分を必要としている「世間様」のために自立していく。
この作品がただの戦争小説になっていないのは、あちこちに散りばめられた西洋文化を感じさせる「モオツアルト」の曲や「ヴァイオリン」、当時にはまだ珍しい「クリスマス・イヴニング」などの言葉が"昭和浪漫"(帯より)の雰囲気に一役かっているからだ。 旧仮名遣いの文体と小道具に演出され、主人公が典型的な耐え忍ぶ日本の女タイプであっても、まったく貧乏臭くなっていないのがいい。
若合春侑の文章を読んでいると、日本語はこんなにも美しかったのだということを思い出す。 流行りの小説を読み慣れた目には、初めは旧仮名遣いの文面が難解に見える。 だが慣れると、そのリズム感と独特の丁寧語がすらすら入るようになり、意外とクセになる心地よさなのだ。
まだ40歳代の著者が、現代にあえてこの形態でこういった時代背景の物語を書くのは、強い美意識の成せるわざだろう。古風な小説だが、逆に新しさも感じさせる作家である。
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記入日時 2002/08/16/06:55:44
No.16
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